物忘れがひどくなったり、同じことを何度も聞いてしまう、怒りっぽくなった、夕方から夜にかけて落ち着きがない。

家族や周囲の人からは、そのように感じられるのに、本人には全くその自覚がない。

これらの症状が見られる場合は、認知症の可能性があります。

物忘れは、年をとることで誰にでも生じるものです。しかし、単なる物忘れでも、認知症の一つの症状としてあらわれるものもあります。

認知症の可能性がある物忘れ

• 物事の段取りがわからなくなる
• 日付、時間や場所等がわからなくなる
• 経験の一部ではなく、経験したもの全体を忘れてしまう
• そもそも、物忘れかどうかわからない

あくまでも上記は目安となります。

認知症は加齢による脳の老化とは異なりますが、誰もがかかる可能性がある身近な病気のひとつです。以前は「痴呆（ちほう）」と言われていました。
後天的な脳の器質的障害により、いったん発達した認知機能(記憶・判断・計算・理解などの高次の脳機能)が低下し、社会生活が障害される疾患で、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などに分けられます。

症状は大きく2つに分けられます。記憶障害、見当識障害(場所や時間、人物などを正しく認識する能力の障害)、失語、失行(それまで出来ていた作業が出来なくなること)などは、中核症状と呼ばれ、認知症患者さんに必ず認められる症状です。
2つめとして、徘徊、興奮、攻撃性、幻覚や妄想などが挙げられ、BPSD(行動・心理症状)と呼ばれます。適切なケアや環境調整、リハビリテーション等の非薬物療法が優先されます。高度のBPSDには、抗精神病薬の使用が考慮されます。

アルツハイマー型認知症は認知症の中で最も多く、女性により多く認められ、異常タンパク質の蓄積などにより、脳神経が変性して脳の一部が萎縮していく過程でおきる認知症です。
次いで多い血管性認知症は、比較的男性に多く見られ、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によっておきる認知症です。全体的な記憶障害ではなく、一部の記憶は保たれている「まだら認知症」が特徴です。
レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症もタンパク質の蓄積による変性型の認知症です。

認知症を完全に治す治療法はまだありませんが、早期に診断することにより、薬によって進行を遅らせる可能性が高まりました。原因によっては症状が急激に進んだりする場合がありますので、早期発見、早期治療で進行を抑え、症状を軽くすることが大切です。

頭部外傷やくも膜下出血後、数週から数カ月経過し、髄液の通過障害により脳室が拡大したことにより認知機能の低下、歩行障害、尿失禁といった症状がみられることがあります。正常圧水頭症という疾患で、脳外科でのシャント術などの適切な治療で症状が軽快することが期待され、認知症との鑑別が必要となります。
アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症には、抗認知症薬が認可されていますが、神経細胞を再生や増加させるような作用はありません。投与開始後3カ月程度は一時的に認知機能が上昇する効果がありますが、その後の認知機能低下は続くと考えられています。
一方で、中年期・老年期の運動習慣や定期的な身体活動が、アルツハイマー型認知症の発症や進行を緩徐にすることが報告されています。
世界初の治療薬として期待され話題となった「アデュカヌマブ」は、臨床試験の計画が途中で変更されたことなどあり、アメリカでは条件付き承認(一時的な承認で再び臨床試験を行って治療効果を示す必要がある)となったため、日本では2021年末に承認は見送られています。
また、「レカネマブ」という開発中のアルツハイマー病治療薬は、最終の臨床試験(治験)の結果が2022年9月に発表され、同年度内に日米欧での承認申請が行われる見通しとなっています。

認知症の主な症状

• 物忘れが目立つ
• 出来ていたことが出来なくなってきた
• 歳をとってから怒りっぽくなっている